熱物性④ 交流加熱法

熱物性

非平衡の熱力学で扱われる物理量を得るためには、時間依存性のある加熱や、体積変動などの刺激を加える必要があります。

そのうちの一つの実験手法が、交流加熱法です。

動的熱測定法における温度波形 - 熱測定

周期的に熱を加えて、温度変化を測定します。

一般に、熱が移動する経路は大きく分けて3種類です。

1.伝熱:温度差のある物体を接触させると、温度が均一になる方向で熱の移動が起こる。
2.対流:物の移動により、物体に蓄えられた熱エネルギーが移動する。
3.放射:電磁波などにより、熱エネルギー以外の形式でエネルギーが移動し、被加熱物体に照射された後に、エネルギーの変換が起こり、加熱される。

COVID‑19の感染拡大により、非接触で体温を測定する需要が高まりました。そこで普及したのが、赤外線で測定する体温計です。この種類の体温計は「放射」で温度を調べています。また、脇などに接触させて測定する体温計は「伝熱」による熱の移動から体温を測っています。
ちなみに、いずれの体温計も、近年は、内部で補正処理をしています。つまり、実測値ではないことが多いです。赤外線の測温は、放射率などを考慮する必要があります。放射率は物体表面の状態に依存するため、それを補正します。また、接触式の体温計も、予想式とよばれているものが多く、温度変化の傾向から体温を予想しています。

脱線しましたが、
放射以外の方法で加熱する場合、試料表面から熱エネルギーを供給し、
その熱エネルギーが試料内部に、伝熱や対流により伝わっていきます。

つまり、本質的に試料全体の温度が均一になるためには時間がかかります。

それを式で表現すると、熱伝導方程式になります。

\( \displaystyle \rho c \frac{\partial T}{\partial t} = \lambda \frac{\partial^2 T}{\partial x^2} \)

温度 \( T \) は時間 \( t \) と位置 \( x \) の関数であるので、十分な時間が経過しない限り、試料内部の温度の時間変化と、空間的な不均一さが発生します。

ただし、この時点では、密度 \( \rho \) 、比熱 \( c \) 、熱伝導率 \( \lambda \) は時間と位置に依存しない定数とみなすことはできます。

熱力学では、時間依存性は扱えませんし、試料内部に温度の不均一さがあることも許されません。
しかし、その辺のことは、すべて熱伝導方程式に押し付けることで、物性値である密度、比熱、熱伝導率は辛うじて、熱力学で定義された物理量をそのまま流用することが可能です。

ですが、例えば、相転移などが起こり、試料内部で、熱伝導以上の熱の移動が起こる場合は、熱伝導方程式だけでは対応できなくなります。

試料中を伝わる熱により、試料内部の温度が上昇します。その温度上昇により、試料内部の分子の最安定な「相」が変化します。すると、分子は熱エネルギーを奪って、最安定な「相」へと転移します。

「相」とは、分子の並びのことで、結晶相なら、比較的そろった並びのことで、気相なら、ほとんど並んでおらず、好き勝手に、個々の分子が動いているイメージです。そして、その中間状態が、液相や液晶相です。

分子の並びが変化するには、多少の時間が必要です。

つまり、熱が供給されてから、相転移が完了するまで、やはり、本質的に時間がかかります

この時間は、熱伝導方程式では表現できません。今まで、熱力学変数を時間依存させずに自然現象を解釈してきましたが、遂に、それらの物理量を時間や空間に依存する形に変えざるを得なくなりました。

熱力学変数を時間依存する物理量に拡張すると、それは熱力学の思想から逸脱するので、熱力学変数ではなくなってしまいます。しかし、たとえば、時間を変数にもつ「複素比熱」を導入すると、相転移に伴う熱の移動の遅れを効率的に表現することができるようになります。

比熱は、1℃温度を上昇させるときに必要な、単位質量当たりの熱量です。
そして、その熱の移動は、相転移の進行により(時間的に)変化します。
それを表す物理量が「複素比熱」です。

ところで、なぜ「複素」比熱なのかというと、
周期加熱現象を、オイラーの式
\( \rm{e}^{i \theta} = \cos \omega t + i \sin \omega t \)
を用いて、複素数で記述することが多いからです。

また、虚部は測定できない現象や、損失現象の表現を表すため、実部と虚部を同時に記述することで、現象の理解が容易になるという利点もあります。

ちなみに、英語では「dynamic specific heat」なので、複素量であることが大事であるというより、動的測定により得られる周波数依存性のある比熱、という意味のほうが強いです。とはいえ、電磁気学では「複素誘電率」という物理量があり、それに近い考え方を採用しているので、問題ないと思います。電磁気学は時間を変数に持つことが許されている理論なので、「複素誘電率」は無理なく導出される物理量です。その物理量と比較することで、複素比熱の理解が深まります。

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