熱力学は非常に「美しい理論」と言われます。
科学の理論が「美しい」とは、
1.興味の対象となる現象をギリギリまで単純化するとともに、それ以外の現象はギリギリ排除する。
2.現象を記述できなくならない程度に、ギリギリまで扱う物理量を少なくする。
3.興味の対象となる現象は、矛盾なく解釈できる。
ということです。
科学の理論は、「入れ子」状になっていて、
古典力学の周りに、量子力学があって、その周りに素粒子論があります。
また、力学の周りには、相対性理論もあります。
熱力学の周りに、統計力学があります。
科学の理論は、興味の対象とする現象を限定しているため、理論が想定している条件から逸脱するような現象は解釈できません。そのため、新しい条件で自然現象を解釈したくなったら、その理論を内包する形で、新しい理論が作られます。
たとえば、力学は「物の位置変化」を扱いますが、その「物」には電子や陽子などが、完全には含まれていません。それを扱えるように作られたのが量子力学です。
理論は、その周りに強固な新しい理論ができて初めて、理論の適用限界が明確になります。
つまり、周りの理論が出来て初めて「美しい」かどうかが分かります。
熱力学は、統計力学により適用境界がはっきりしたことで、「美しい」ことが分かった理論です。
もちろん、力学も「美しい」です。量子力学がしっかりした理論なので。
ただし、電磁気学は…微妙です。電磁気学の周りには量子電磁気学などの理論があるのですが、量子電磁気学はまだ未熟で、もう少し研究が必要です。
さて、その熱力学ですが、「美しく」なるために、対象とする現象をギリギリまで絞っています。
その一つが、「「熱平衡状態」で、あるいは、「熱平衡状態間の変化量」でのみ、現象を扱う」という制約です。
これは非常に強い制約で、「時間変化している最中」の現象は完全に排除されます。
つまり、「相転移中」の現象は、熱力学では解釈を放棄している、ということです。
「氷が溶けつつあるとき」とか「食べ物を加熱中」などという現象は、熱力学では「見なかったこと」にします。
あくまで、全部が氷の状態や、全部が水の状態で、その物体の圧力や体積がどうなっているか、や
加熱前の状態のエネルギーと、加熱後のエネルギーの差がどうなっているか、のみを扱います。
熱力学の学習では、「熱平衡状態」を理解することが、もっとも大事なことです。

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