熱力学は以下の4つです。
\(\Delta U = ~~T \Delta S ~~ – P \Delta V~ + \mu \Delta N \\
\Delta H = ~~T \Delta S + V \Delta P~ + \mu \Delta N \\
\Delta F = -S \Delta T~ – P \Delta V~ + \mu \Delta N \\
\Delta G = -S \Delta T + V \Delta P~ + \mu \Delta N
\)
このうちの2つ目、\( H \) がエンタルピーです。
エンタルピーの変化量(\( \Delta \) が付いている物理量)は(「モル数」はすべての関数で共通のため無視すると)「エントロピー」と「圧力」です。つまり、「エントロピー」と「圧力」を変化させる条件で実験を行う場合は、系のエネルギーをエンタルピーで表します。
ただし、第1項の \( T \Delta S \) はもともと「系に流入する熱量」なので、(エントロピーを変化させる条件で使用するというより)「加熱」と「加圧」で系にエネルギーが供給される条件で使用される系のエネルギー表現がエンタルピー、と言った方が現実に即しているかもしれません。
また、内部エネルギーからエンタルピーを導出するときに使用した、ルジャンドル変換の変換式
$$ H = U + PV $$
も頻出の式です。
さて…。
ここからが気持ち悪い話なのですが、エンタルピーは慣習的に「定圧条件下」で使用されることが非常に多い関数です。むしろ、定圧条件下以外ではほとんど使用されていないのではないか、と思われるレベルです。
おかしいです。エンタルピーは「圧力を変化させるという条件下で使用する」という前提でルジャンドル変換されたのですから。
ルジャンドル変換の数学的要請を無視し、「定圧条件下」で使用する場合、本来のエンタルピーがもつ情報量を、一部、犠牲にし、4つの熱力学関数の等価性が損なわれます。
もはや、内部エネルギーとは別の物理量になってしまいます。
ただし、情報を一部捨てたため、単純な物理量になった、というメリットもあります。
エンタルピーは
$$ \Delta H = T \Delta S + V \Delta P + \mu \Delta N $$
ですが、ここで、物の出入りを禁止(閉鎖系)します。つまり、\( \Delta N = 0 \) とします。
また、第1項の \( T \Delta S \) はもともと「熱」なので、\( q \) に戻します。すると
$$ \Delta H = q + V \Delta P $$
となります。ここで「定圧」とします。つまり、圧力変化 \( \Delta P \) をゼロにします。これらの処理により、遂に、
$$ H = q $$
となってしまいました。驚きのシンプルさです。シンプルというより、単純な等式なので、 \( H \) か \( q \) のどちらか一方だけで十分で、片方は不要なのでは?と思えるレベルです…
とはいえ、主に化学や薬学の分野では「エンタルピー = 定圧条件下の熱」という認識が市民権を得ています。
たとえば、アンモニアの合成を表現するとき、
$$ \frac{3}{2} \rm{H}_2 \rm{(g)} + \frac{1}{2} \rm{N}_2 \rm{(g)} \leftrightarrow \rm{NH}_3 $$
$$ \Delta H^{\rm{⦵}} = -46.1 ~\rm{kJ/mol} $$
と書きます。(g)は気体状態を表します。また、⦵は標準状態を表す記号で、つまり一定圧力下で行った合成反応ということです。つまり、ここで使用されている \( H \) は「ただの熱」です。マイナスになっているのは「発熱」という意味です。反応が右に進むと、1 mol当たり46.1 kJの発熱反応が起きます…ということです。
このように、エンタルピー=定圧条件下のただの熱、という使い方も知っておかなければなりません。
最後に。エントロピーと文字が似ていますが別物です。エントロピーは「乱雑さの度合い」です。ただし、エンタルピーもエントロピーもギリシャ語由来の名前なので、その意味では似ています。

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