熱力学⑥ エントロピー 統計力学的定義

熱力学

エントロピーには2つの定義が存在します。熱力学的定義と統計力学的定義です。
熱力学はマクロな視点でのみ現象を扱います。マクロとは巨視的という意味で、モル数以上の原子分子集団を指します。熱力学で扱う物理量である「温度」は、分子1個では定義できません。温度とは分子集団全体の運動の激しさを表す物理量です。

一方で、統計力学は原子分子ひとつひとつを扱います。原子分子1個の性質の積み重ねで、分子集団の性質を導きます。つまり、ミクロの視点から熱力学を再構築するのが統計力学です。

統計力学で定義されるエントロピーは以下のようになります。

$$ S = k \log_e W $$

この式はボルツマンの式、あるいはボルツマンの原理などとよばれています。\( S \) はエントロピー、\( k \) はボルツマン定数、\( W \) は状態数です。ちなみに、\( ¥log_e \) は \( ln \) とも書きます。

ここで重要なのが状態 \( W \) です。系に含まれる原子分子の状態の「場合の」です。熱を加えて原子分子の熱振動を激しくすると、原子分子が持つことのできるエネルギーの幅が広がり、いろいろな状態がとるようになります。それが「エントロピーが増大した」と解釈する考え方です。

基本的に熱力学的定義と統計力学的定義は同じになるように作られています。ただし、熱力学的定義では、エントロピーの絶対値ではなく、変化量のみが定義されていました。そのため、熱力学で定義されたエントロピーの絶対値を求めるためには、熱力学第三法則を用いる必要があります。熱力学第三法則というのは、「完全結晶絶対零度でのエントロピーをゼロとする」というものです。

では、完全結晶でなければどうなるか?というと、ゼロにならず、その値は「残余エントロピー」とよばれます。残余エントロピーの値については、熱力学第三法則では解釈できません。

熱力学的定義は、当然ですが、熱力学では非常に有用です。また、原子分子の存在を認めて現象を解釈できる統計力学的定義も有用です。どちらも「自然を解釈したい」という人間の願望にこたえてくれます。ただし、残余エントロピーなどの特殊な物理量の解釈には統計力学的定義が有利であったりと、それぞれの定義の特徴を知った上で使う必要があります。また、エントロピーについての説明を他者から聞くときに、説明者がどちらの定義をイメージして話をしているのかを把握しておかなければ意思疎通ができません。これは複数の定義が存在することのデメリットであり、「エントロピー」という物理量を分かりにくくしています。

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