力学⑦ 続・「見えないもの」の定義

力学

「見えないもの」を定義する場合、「法則」という形での定義になります。

「見えるもの」は目の前の現象のうち、測定できるものを数字と単位で表しただけでした。視覚的に認識でき、測定も出来る物理量は「自明」な物理量として扱われており、

定義の仕方としては
状況をイメージし、それを物理量に当てはめる、という方法でおこなっていました。

一方で、「見えないもの」に関しては、定義しなければならない道理はありません。
そのため、「見えないもの」は「この物理量を導入して自然を解釈したら、理解の助けになるはずだ」というロジックで定義します。それが「法則」です。

「法則」にはそれが成立する必然性もありません。あくまでも、理解の助けになるはずだから導入しませんか?という「提案」です。それを受け入れるかどうかは、使う人の判断で、使う人が多くなれば市民権を得ます。古くからある自然科学の理論に含まれる法則は、長い時間をかけて市民権を得た法則達です。

力学の法則は「運動の三法則」と呼ばれています。三法則なので、3つの法則がセットになっています。
第一法則から順に考えます。

「第一法則」物体は通常、静止または等速運動を続ける
静止または等速運動、というのは言い換えると「加速度ゼロの状態」です。
なので、「運動は加速度ゼロが基本」という意味です。
この内容を反転させると「加速度運動は特殊」ということになり、更に深読みすると
「加速度運動は(特殊なので)扱いがめんどくさい」という内容になります。
めんどくさいということは、簡単に理解する妨げになるので、

めんどくさい「加速度運動を簡単に扱えるようにする」という大義名分があるから、扱わなければならない物理量が増えちゃうけど「見えないもの(=「力」と「質量」)」を定義することを許して?

という主張を第一法則でしているのです。

第一法則が前提とする、「運動は加速度ゼロが基本」ということは自明ではありません。種々の観測結果を考えると、そのように現象を解釈する方が妥当であろう、と多くの科学者が考えているというだけの話です。自明ではないので「法則」扱いです。

第一法則の主張を受け入れるのであれば、加速度を扱う妥当な方法を考えなければなりません。それが第二法則に繋がります。

「第二法則」\( F=m \times a\)
ここで、\(F\) が力、\(m\) が質量、\(a\) が加速度です。
等式で表現されていますが、実際は、加速度 \(a\) を用いて、力と質量の2つを定義している、かなり無理のある定義式です。
ただ、この式で表現されている考え方は、人間の感覚と一致しているので違和感はありません。その考え方は2つです。

1.「加速度が大きくなる」ということを「力が働いた」と考えよう(力と加速度を比例関係で結ぶ)。
2.「同じ作用(同じ力の大きさを加える)」でも、「加速しにくい物体がある」。加速しにくさを「質量が大きい」と表現しよう(比例係数として質量を導入する)。

…違和感ないですよね?物体を押せば加速しますし、重ければ加速しにくいです。
ただし、繰り返しになりますが、力も質量も「見えないもの」なので、どのように定義しても間違いではありません。
たとえば、
\( -F=m^2 \times a^3 \)
のように定義してもよいのです。ただ、マイナスや2乗や3乗を入れることが現象を簡単に理解することに役に立たないばかりか、理解を困難にしてしまっていると多くの人が感じる…と思われるので、この式は淘汰されて消えます。

「第三法則」:2つの物体間に働く力は、同じ大きさで逆向きとなる
「力」は「勝手に定義した物理量」です。そのため、自然現象と矛盾しないように、使い方も定義しないといけません。「力」の使い方の定義、が第三法則です。
なぜ「2つ」の物体間の話をしているかというと…
1つの物体が加速するためには、別の物体から作用を受けないといけないので、力が問題になるのは、最低でも2つの物体が存在しているときだからです。2つ以上の物体間の間に働く力を考えるなら、たくさんある物体を2つずつペアリングして、それぞれの力を足せばよいです。

以上の3つの法則が「力」と「質量」の定義です。
非常にめんどくさい定義です。
第一法則で「見えない物理量」を定義するための「大義名分を掲げ」、第二法則で「数学的に定義」し、第三法則で「使い方を定義する」という、重厚な論理構成になっています。逆に言うと、「扱うべき物理量を増やすことの罪悪感に引け目を感じて、必死で説得しようとしている感」のある定義の仕方です。
これが、「見えないもの」を定義するときのやり方です。

補足で2点。

第一法則で出てきた「物が静止または等速運動の状態を続ける」という性質を「慣性」といいます。そのため、第一法則は「慣性の法則」とよばれます。また、第三法則で出てきた2物体間に働く力の性質を「作用反作用」といいます。そのため、第三法則は「作用反作用の法則」です。
ところで、「慣性」のアクセントなのですが、「かん→せい→」と平坦に読むようです。つい「感性」のイントネーションで「かん↑せい↓」とよみたくなります…

もうひとつ。第二法則の式は「運動方程式」とよばれます。人間は「大事なものに名前を付けて、他と区別して認識する」という文化があります。第二法則の式は、力学で最も大事な式です。そのため、式に名前がついています。
運動方程式がどれくらい大事なのかというと、「力学で現象を解釈すること=運動方程式を使うこと」ぐらい大事です。つまり、「力学の問題では、いついかなる時も、運動方程式は使用してよい」ということになります。

力学は「力を定義して現象を簡単に理解するための道具」です。最も大事な要素である「力」を定義している運動方程式が、力学の核です。

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